気まぐれなアイドル
後編
「おーい、猿野ー。来たぞ。」
「御柳…?!!」
さて華武高校の面々と天国が人知れず(?)約束を交わした翌日。
果たして御柳・屑桐・朱牡丹・久芒・そして帥仙の5人が十二支高校に現れた。
流石に翌日と約束した覚えのない天国は、面食らう。
「お前、明日なんて言ってねーだろうが!」
「えー、だって。善は急げって言うじゃね?」
「どこが善だどこが!!」
かなり顔を近づけて御柳に凄むが、効いている様子は全くない。
しかしその状態は周りにいる別の面々に激しく効果をもたらした。
「とりあえず…離れろ、バカ猿。」
いつの間にやらその場に現れたのは犬飼。
「あぁ?オレと猿野の時間を邪魔するんじゃねーよ。」
以前ほど険悪ではなくとも、流石に友好にはなっていない二人はいつもどおり火花を散らす。
すると背後から。
「そんな表現するような状況には見えないがな。」
ひょい、と後ろから屑桐が御柳の襟首を掴み嗜めた。
「んーなことより、とっととどっか店行こうぜ。おベンキョー会だろ。」
いつも通りどこか気怠るげに、だが早々に用件にたどりつこうと帥仙も口を挟んだ。
すると。
「アンタがそんなに勉強熱心だったとは思えなかったな。」
どこから出てきたのか今度は一宮が現れる。
「あ?アンタ誰。」
「こいつらの先輩だ。」
帥仙の眼力(?)に押されることもなく、一宮は答える。
「でもオレたちも猿野と約束してた気。せっかく出向いたのに無視はなさ気じゃない?(;¬ ¬)」
「Hahha〜、約束ってのは一方的にするもんじゃねーZe?」
今度は朱牡丹に、虎鉄が応える。
「一方的じゃないングよ?猿野も承知してくれたって聞いてるング。」
「けど今日来たのは一方的にしか見えんとね〜。」
そして久芒の言葉には猪里が応えた。
そして。
「今日のところは、帰ってもらえないかな?
猿野くんは僕たちと約束があるんだけど?」
「ほう、学生の本分を放り出してまでの用事なのか?牛尾。」
真打ちが登場した。
そしてその場は若い炎(黒いが)が燃え上がり…。
「……なんでいつの間にこんなことに…。」
天国本人が気付いた時は一触即発の状態になっていた。
その時。
「アマクニ!!!!」
「え?!」
突如聞こえてきた声は、明らかに日本語の発音ではなかった。
そしてその内容は、この場の中心人物。
そこにいる全員が、声の方に向くのには理由は十分だった。
果たしてそこにいたのは。
「ウィル…??!!」
十二分に存在感のある外国人。
アッシュブロンドの髪がよく映え、整った長身。
彼の正体に気付いたのは天国以外では一人だけだった。
「ヴィ、ヴィルフォード・ローレンス??!!」
「…?誰だ、それは。」
驚いた虎鉄は屑桐の質問に答えなかったが、その名前で気付いた朱牡丹が変わりに返答する。
同じように、驚いて。
「HEAVEN…猿野のライバル気…です。モデルの…。(o。o;) 」
「な…。」
「何だって?!」
「マジかよ…。」
「何だってここに…!」
「まさか、猿野を連れング…。」
最後の久芒の言葉に、その場に居る天国とヴィルフォード以外の全員が、ぎくりとした。
「アマクニ、会いたかった…!」
「ウィル、何でここに?!仕事でか?!」
「仕事は関係ないんだ、君がモデルを辞めたって聞いて…Mrs.サワマツに頼んで来たんだ。」
「はあ?!お前いつもの分刻みのスケジュールは?!」
「そんな事はいいんだ!それより…何故辞めるなんて…!
ああ、少し見ない間にこんなに手も傷ついてるじゃないか!!」
全て英語で交わされる二人の会話を全て把握できたのは…。
この場では一人だけだった。
「…あの、牛尾サン…何言ってるかわかりますKa?」
「……どうやら彼は相当に忙しい仕事の合間をぬって猿野くんに会いにきたらしいね…。」
二人の会話は続いていた。
「さあ、アマクニ早く戻ろう。
モデルを辞めて野球なんて一時の迷いだよ…君を失うのはファッション業界にも大きな痛手だ。」
ぴくり。
「君はこんな辺鄙なところで埋もれていられる存在じゃない!
大事な…僕の…。」
「僕の、なんです?」
聞き捨てならない言葉を聞いて、牛尾は自然と間に口を挟んでいた。
「何だBOY、日本人にしては英語がうまいようだが口を挟むな。失礼だ。」
「貴方こそ失礼ですよ。貴方は野球を…そして彼の選択を蔑む発言をした。
ここには彼との野球を心から好きな者ばかりが集まっているんです。
それに対して、一時の気の迷いと言われるのは心外ですね。」
「何も知らないくせにえらそうな口を叩くな!
お前はHEAVENの何を知っているんだ!」
「お前こそ「オレ」の何を知ってるんだよ?」
天国は冷ややかに聞いた。
「…アマクニ?」
その変貌は、言葉の分からない周りにも伝わった。
「…猿野、怒ってるな…。」
「何、言ったんだあのモデル。」
「…分からんが…牛尾が入っていったところを見るとどうやら野球も侮辱したのかもしれんな。」
「よく、分かるっすね。」
「あいつがあんな顔する時はたいがい、な。」
「オレは気の迷いで野球をやってるんじゃない。オレがずっと考えてきた選択だ。
お前こそ…オレを軽く見てるんじゃないのか?」
「…そんなことは…!」
「違うってんなら…オレの選んだ道に文句つけるんじゃねえよ。
モデルとしてのオレが惜しいって言ってくれるのは、嬉しいけどな。
オレは誰のためでもなく自分のために仕事をしてたんだ。
自分のために仕事を休んで自分のために…野球をする。
それが悪いなんてお前は思うのか?」
「…だが…。」
「お前は、オレの友だちだろ?ウィル。」
天国はまっすぐにウィルを見つめて、言った。
「…アマクニ…。」
「モデル仲間でお前だけはオレのこと「アマクニ」って呼んでくれただろ。
…それ、嬉しかったんだぜ。お前が「オレ」を見てくれてるって思ったから。「HEAVEN」じゃなくてな。」
「……。」
黙り込んだヴィルフォードに一息つくと。
天国はずっとこちらを見つめていた、仲間の方を向いた。
「オレさ、お前に教えてもらった英語をあいつらに教える約束したんだ。
…それも嬉しかった。
だから…お前にはわかって欲しい。いいよな?」
ヴィルフォードは、ゆっくりと顔を上げると。
天国に言った。
「…分かったよ。アマクニ。
押しかけてすまなかったな…。
でも、戻ってくることがあるなら…いつでも待ってる。」
そして牛尾にも小さく言った。
「BOY、君にもすまなかった。」
「…いえ。」
「アマクニの事、よろしく頼んだよ。…友人として、頼む。
あいつは気まぐれだけど…一度決めたら頑固だからね。」
「…ええ、よく分かりますよ。」
牛尾はそれだけ答えた。
本当は、ヴィルフォードの内にある想いに気付いていたけれど。
それを許せるほどには大人ではいられなかった。
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「…で、結局全員でかよ…。」
「いいじゃん、もう二人も先生がついたんだしな。」
結局その日、何故か牛尾邸で全員そろって英語の勉強会となった。
牛尾の堪能な英語を聞いて、天国が彼にも英語の教師役を頼んだのである。
そして人数も人数だし、ということでスペースの余りある牛尾の家に招待することになったのだ。
「で、牛尾さんちなのはいいんだけどYo…なんでこいつもいるんだ?!」
「コイツとはシツレイだぞ、BOY」
「アンタ、日本語うまいングね…。」
「アマクニに教わったんだv」
「……(-_-#)」
ついでに、何故かヴィルフォードも付いてきていた。
どうやら会った日に帰る予定で、ホテルもチェックアウトしていたのだ。
だが、そのまま帰るつもりだったヴィルフォードを天国が引き止めたのだ。
せっかく来てくれた友人を、冷たい言葉のまま帰すのが気が引けたらしい。
とはいえ、天国の家に泊めるのは周りが許さず。
利害の一致で牛尾邸に泊まることが決まった。
ついでに、実は日常会話には困らない程度に日本語が話せるヴィルフォードも、英語教師役となった。
流石に天国に教えた分、教え方はうまく。
かなり一晩で英語力上昇に貢献してもらったため、あまり文句は言えなかったそうだ。
勿論、彼が強力なライバルとして認定されたことは言うまでもない。
end
何ヶ月ぶりかでようやく完結しました、モデルシリーズ!
だんだんシリアスとギャグの境目がなくなってきたので、不自然さが増してますね…。
オリキャラも登場させていただき、楽しかったです。
夜魅さま、素敵なリクエスト本当にありがとうございました!
これからも頑張ります!!
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